曹洞宗 魚籃山 常現寺 青森県八戸市
 『月刊ふぁみりぃ』 2018年3月17日
 ワンニャン斎苑物語 パートU
  
和尚さんのさわやか説法289
曹洞宗布教師 常現寺住職 高山元延
 今年の干支である「戌年に因んで」の第二弾!!
 新春号では「ワンニャン斎苑」の発端物語を「さわやか説法」したが、今月号は、その三十数年の中での出来事や思い出の何コマかを紹介したい。
―ちょっと―その前に
 皆さんは、「イヌワラウ」という食堂が、この3月4日に新規オープンしたことを御存知であろうか?
 この開店案内を一見した時、私は「イヌワラウ」との店名に
 「えっ?何?」
 「変な名前だな?」
 「何か意味があるんだろうか?」
と思い、続いて、その開店場所が場所だけに妙な違和感を覚えた。
―その場所とは?―
 (それは、最後に述べることにします)
 その店名の冠には、
 「夕日絶景食堂」とあった。その食堂では、食事やグラスを傾けながら、夕日が眼下の太平洋に沈み、海面に輝き写し出されるという、素晴しい絶景が見られるのである。
 店主の方が御挨拶で説明された。
 「イヌワラウ」とは、今年が戌年(いぬどし)であり、また犬が笑うとは縁起が良いこともあり、運が上昇するとの意味があって命名したのだと言う。
 「なるほど」と思い帰ってから調べてみた。
 この「犬笑(いぬわら)う」とは相場格言であり、株価が上がって笑うとのことである。
 「辰巳天井(たつみてんじょう)、午(うま)尻下がり、未(ひつじ)辛抱、申酉(さるとり)騒ぐ 戌(いぬ)笑う。亥(いのしし)固まる、子(ねずみ)繁栄、丑(うし)つまずき、寅(とら)千里を走り、卯(うさぎ)跳ねる」との十二支に因んだ株式相場格言の中にあった。
 「道理で、眼の前には株上がりの神社 蕪島があるわけだ!!」と私は納得してしまった。
 (どこの場所にあるか?大きなヒントです。)
―どうぞ―
皆様も行ってみては如何でしょうか?特に犬好きの方、犬を飼っている方は訪れてみてはどうでしょうか。
 運が上昇するかもよ?

―さてさて―
 ワンニャン斎苑物語での思い出である。
 ワンニャン供養を12日と定め始めたのはいいが、当初は現在のように多くの人々が訪れるということはなかったし、立派なモニュメント慰霊塔もなかった。
 そこには、犬猫の遺骨を収める見すぼらしい骨堂が地面上に埋設されているだけであった。
 それでも毎月12日に供養を続けていたら、ある日、工場長が高さ1メートル、幅10センチぐらいの角木を差し出した。
 「これを供養塔に見立て、何か書いてくれませんか!!」と言う。
 そこで私は「ワンニャン畜霊供養塔」と墨書すると、早速それを骨堂後方の土の部分に立ち上げた。
 その真新しい角木に入魂開眼をすると、何とはなしにワンちゃん、ネコちゃん達が眠る安住の聖地になったような感を覚えた。
 それからというもの次第に訪れる方々が増えていったのだから不思議である。
 そのうち毎月来ては手を合わせる方が訪れるようになり、段々と顔見知りとなり、お互いに犬友(いぬとも)、猫友(ねことも)の輪が広がっていった。
 その1人が旭ヶ丘からの80才過ぎのお婆ちゃんだった。
 毎月タクシーで馳せ参じると、大量の供物を持ってきては、供養が終わった後、それを私や職員、そして訪れた方々にふるまうのである。
 さながら暖い日には、犬談議に猫談議のピクニック気分であった。

―時節は巡り―
 あのお婆ちゃんは姿を見せなくなり、鮫の清掃工場は稼動を取り止め閉鎖となった。それでも「ワンニャン供養」の聖地は守られ、毎月続いていく。
 平成の時代に入り、真新しかった供養塔は黒ずんだ柱となり、鮮やかな墨書も見えずらくなってきた。
 そして長年の風雪に耐えてきたその柱が何となく傾き始めてきたのである。
 その頃にも毎月訪れる方々も増えてきて、「これは何とかしなければならない」との声が上がり始め、八戸市に対して、角木ではなくモニュメント形式の慰霊碑を建立してもらいたいとの気運が高まってきた。
―なんと―
 その方々は「ワンニャンの日に集う会」という組織を自発的に立ち上げ、八戸市に陳情するのであった。
 ところが、八戸市では「はい。そうですね。分かりました。」とは言わない。
 何回か清掃事務所の労を経て陳情しているうちに「皆さんが、その慰霊碑を建て物納してくれるならば、周りの環境整備は八戸市でやります。」との回答が得られたのである。
 そうしたならば、その「集う会」のおばちゃん達は俄然張り切って、毎月来られる方に募金箱を作り善意の勧募をし始めたのだ。
 多くの方々は、その趣旨に賛同し、十円、百円、千円と募金箱に投じてくれ、足掛け八年の歳月が流れた。
 時、至って石材業者にモニュメントの見積りを取ると約200万だと言われ一同驚いた。
 その募金総額の通帳は75万円だったからである。
 「まるっこ足りない。これからどれぐらい勧募を続けなければならないのか」と一同、ガクっと肩を落とした。
 その石材業者は、私達のあまりの落胆ぶりと、その実状を聞くと、「ウーン」と唸りながら意を決したかのように満面に笑みを浮かべてこう言った。
 「分かりました。その七十万円で建てましょう。何とかします。」
 「皆さんには、負けましたよ。」と・・・。
 これにはビックリ、たまげたのなんのって!!おばさん達は小踊りして喜び合った。
―かくして―
 平成17年の春から工事が始まり、その物納を受けて八戸市では周囲の環境整備に着手した。
 その年の10月12日の除幕式の時、モニュメントのワンちゃん、ネコちゃん達の姿が燦然と輝き現出すると、集まった人々からは、大きな歓声が湧き上がり、大きな拍手が鳴り響いた。
 そして大きな涙も流れ落ちた。
 私は、その時、天の彼方から犬の鳴き声、猫の鳴き声が聞こえたような気がした。
 「ワン ワーン」
 「ニャオ ニャオ。ニャン ニャン」と・・・。

―更に私にとって―
 忘れられない「ワンニャン供養の日」は、3月12日。
 平成23年のことだ。東日本大震災の次の日である。
 この未曾有の大災害に八戸市は大津波に襲われ、人々は避難生活を余儀なくされ、はたまた電力はストップし、真っ暗闇の中、地震津波の恐怖におびえた。
 私は、その12日。いつもの如く「ワンニャン供養」に出掛けた。
 「こういう日だからこそ平然として行く」
 「誰も来ないと思うがやるべきことはやる」と・・・。
行ってみて驚いた。
―なんと―
 三人の方が来ていたのである。
 「よく、こんな時に来られましたねェー」
 あの時は寒かった。
 それと共に異様な感激からか御経の声がガチガチと震えたのだ。

 ワンニャン斎苑での供養は、雨の日、風の日、雪の日、暑き日、寒き日、嵐の日、どんな日でも続いているし、続けている。
 それは、愛するワンちゃんネコちゃん達を心から偲び、いつくしむ人々が集まってくるからである。
 そこには、人々の多くの切なる思いがあり、私にとっては、ここに書き切れない程の数々の思い出があることはいうまでもない。
                                                                 合掌
 ※冒頭の解答
 夕日絶景食堂「イヌワラウ」は、水産科学館「マリエント」4Fにあります。
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